サブプライムローン市場の崩壊

米国で住宅向けサブプライムローン(信用度の低い借り手への融資)のデフォルト(債務不履行)が増えている。その中で住宅ローン大手がいくつか破綻してしまうことを前提に市場は動いているようだ。

米国は2000年の IT バブルの崩壊以降、IT バブルを不動産バブルに転換することによって、成長を維持してきた。2000年以降の経済成長・雇用の約半分は不動産市場がもたらしてきた。

その不動産市場を成長させた原動力は過剰な流動性と信用供与であった。つまり、サブプライムローン市場を急発展させて、通常の考え方では返済できるとは思えない人たちへの融資を可能にすることによって、経済成長をなしとげたといえる。

実際この数年間に米国で発展した信用供与の手法は異常であった。不動産の値段があがったからといって、その値上がりした分だけ融資したり、「『将来の価値』に従って融資する」という名目で多くの中産階級の一般消費者に過剰な広さ豪華さを持った不動産を購入させよう業界をあげてキャンペーンしてきた。極めつけは「自己申告収入ローン」であろう。自己申告収入ローンというのは多くの良識ある日本人は本当にそういうローンが存在するというのが信じられないかもしれない。しかしながら、それは実際に存在し、税金の還付金や小切手手帳の控えを提出させることなく、成績をあげたい融資担当者の指示に従った収入を申告することによって、現実の収入とは無関係に融資を受けることが可能となる。ときにはそれでもまだ返済しなければならない額に満たない場合があるので、実際にはいない『同居人』をでっちあげ、二人で共同返済している形にすることで融資を可能にすることもあるという。

このような過剰な融資を繰り返してくれば、当然それには破綻の日がやってくる。

おそらく現在まさに起こっているサブプライムローン市場の崩壊はいつ起こるかは別にして、いつか起こると思っていた人が大多数であっただろう。

しかしながら、現在という時代は複雑であり、経済の一部に異常な箇所があり、そこを是正しようとすると、思ってもみないところに影響が出てしまう。

サブプライムローン市場は明らかに異常な市場であったが、それは巨大な積み木細工の中の重要なピースであった。サブプライムローン市場は米国の発展の原動力である不動産市場を支えており、不動産市場が崩壊すれば活況期にマイホームを購入してしまった中産階級は壊滅的な打撃を受けることになるだろう。

これから数年後米国では疫病が流行し、国全体が大きな変貌を遂げてしまうだろう。疫病というのはジョークではない。さまざまな経済的変化・精神的ストレスは病気を招くものだ。

そして、よく知られているとおり米国の医療制度は世界最悪である。米国では、高い医療保険に入るような金を持っている人間でなければ、医療を受ける権利を持っていない。お金のない人間が医療を受けようと思えば、たとえ将来返済できる見込みがないことが分かっていたとしても巨額な借金を受け入れる以外に選択肢はない。おりしもベビーブーマーがこれから病気になりやすい世代へと突入していく。市場崩壊で資産をなくしてしまった一方、彼らは年老い病気がちになっていくのだ。

さて、ここで急に違う話題に転じるが、最近急速な円高が進んでいるようだ。この円高は一般的なニュースではグローバルキャリートレードの巻き戻しとして解釈されているようだが、それは一面的な解釈だろう。それだけではなく、「日本買い」の側面も無視するべきではない。

この数年間、世界中の不動産市場で乱痴気騒ぎが行われてきた。アメリカで、ヨーロッパで東欧地域でイベリア半島で、オーストラリアで、韓国で異常な不動産市場の高騰が起きてきた。

その中主要先進国の中でただ一カ国それほど不動産市場が高騰してこなかった国がある。

それが日本である。

日本は過去の不動産バブルの記憶があまりにも新しくあまりにも生々しすぎるために、世界同時不動産バブルの中でただ一カ国不動産市場が比較的マイルドな上昇にとどまってきた。

世界で同時に不動産市場が悪化していけば、日本市場は比較優位に立つ。世界中の過剰流動性を持つ資産が安全な場所を求めて日本へと逃避してくる時代がやってくる。

現在起きている円高をグローバルキャリートレードの巻き戻しというただひとつの理由だけで解釈しようとしているなら、世界市場という積み木細工がどのようなピースの上で形作られているかの全体像が見えていないのではないだろうか。