世界秩序の変曲点のアメリカ(1)

イラク戦争での手痛い失敗、サブプライムローン問題、そして大統領選の混迷、希望を失う中産階級

アメリカの現状は厳しい。

そして一番のアメリカの問題点はアメリカの理想、アメリカをアメリカたらしめたエンジンであるアメリカンドリームがくすんで汚れてしまっていることだ。

アメリカンドリームはある時期以降 高学歴者や特殊な技能の持ち主に対してだけのものと変質しているというのは、別に目新しい話ではない。しかし、それでも、祖国の親が苦労して期待してアメリカに留学させたというのに、クレジットカード地獄に陥り、人間不信の人生の落伍者となって祖国に戻るとなると話は違ってくるだろう。
アメリカ生まれのアメリカ人だって、成長する過程に数多く仕掛けられた落とし穴をすべて避けて大人になるのは大変なのだ。

日本人でアメリカに留学する人というのはとても特殊で、将来日本に帰ってきて就職することが前提であることが多い。そのためここで書いたような内容はピンとこない方が多いかもしれない。

しかし日本以外の多くの国からの留学生はアメリカの大学を卒業後アメリカの企業に就職し、稼ぐことを前提として留学してきている。そのような期待がある中で、現在の留学してきた大学生はクレジットカードによる支払いというアメリカ文化に洗脳されてしまう。自分のアルバイトや仕送りなどでは現代アメリカ文化が奨励する大量消費を行うことができないからだ。

サブプライムローン問題が軽微な問題であるかのような論調が政府筋や一部のメディアなどではよく行われている。これはある意味正しい。今後数四半期において劇的な景気後退が行われる危険性が低いという点には同意できる。特にアメリカの欲望肯定的な文化は、たとえ稼ぎが少なく借金が多い状況になっても欲望を抑えるブレーキが十分働かない。

しかしながら、それは単純に消費文化に漬かってしまっていて消費を抑えることが難しいという人間心理による理由であり、サブプライムローン問題が軽微な問題であるからではない。

サブプライムローン問題は近い将来サブプライムクレジットカード問題に変わるだろう。サブプライムクレジットカードというのは、クレジットスコアが低い人向けに発行されるクレジットカードのことだ。高額な年会費を支払う必要があり、さらに借りるととても高金利だ。
そのようなクレジットカードが必要とされる理由はアメリカは高度にクレジットカードに依存した社会であり、現金だけでは十分な消費活動を行うことができないからだ。

不動産価格の下落に伴い家計のバランスが崩れた人たちは、自転車操業による借金返済に追い込まれる。洋の東西を問わない現象だ。日本で住宅ローンを支払えなくなり消費者金融に駆け込む人と同じように、サブプライムクレジットカードを作成してなんとかその場をやり過ごすしかないのだ。

実際に今後数四半期はうまくやり過ごせるだろう。そしてその意味でしばらくアメリカ経済は持ちこたえるだろうと予測する。しかし、それはただ先延ばしにしているだけだ。

以前にもこのブログで指摘したことがあるが、破産法が2005年に改悪されている。
この破産法改悪の要点を書くと、まず、破産しても借金は帳消しにはならない。所得が中間以上の層については破産そのものが禁じられる。そして、借金返済のための5カ年計画を厳しい基準でたてることなどが要求される。

この中間層以上の所得の人の自己破産が厳しくなったというのは重要な問題だ。サブプライムローンというのは、低所得者層向けと誤解されている向きが一般にあるようだが、その理解は正確ではない。実際のところ、「金持ち父さん」のシリーズに感化された中層以上の人たちが、不動産の転売によってアメリカンドリームを実現するためにサブプライムローンを利用したローンを組んでいたという面もあるのだ。特にリゾート地でのセカンドハウスを投機目的で購入していた例でよく見られる。
このような中産階級の人たちは今後悲惨な人生を送ることになるだろう。

投機で失敗することは自己責任だろう。破産法の改悪があったことを知らないということも自己責任と言えるかもしれない。
しかし、その当事者である場合はどのように感じることだろうか?

そして、このような問題がすぐに一般に十分に知られるとは思えない。今実際に起きていることが一般に理解されるまであと数年の月日が必要だ。サブプライムローン問題やクレジットデリバティブのリスクなどについても2年前にはすでに専門家の間では知られていた問題であったし、1年ほど前なら専門家でなくても少し調査すれば知ることは容易であったはずだ。しかし、多くのメディアが取り上げているのは今なのだ。

今の時点での良いニュースはこの問題が大統領選挙での争点になる可能性があることだろう。特にヒラリークリントン氏がどう破産法について言及するかについて注視したい。ヒラリー氏はこの問題については詳しい。なんらかの解決法を公約してくれると期待したい。

しかしなんらかの解決法が出てきた次は、アメリカ人の開拓者精神というか、アメリカンドリームの幻想に生きていることが障害となるだろう。アメリカ人には自己努力による解決を好み、政府などによる支援による解決をうまく受け入れることができない。

現代のアメリカ人はお互いに整合性がない文化・夢・幻想の中で生きている。