世界秩序の変曲点のアメリカ(3)

最近、商品相場の上昇が著しい。8月中旬での主要指標の下落局面では、商品指標も同じく急落していたが、ここにきて商品の特殊性に注目されているようだ。

正直言って、このアメリカの景気後退が時間の問題で起きると思われている中で現在の商品相場の急騰は値動きを見ながら違和感を感じてしまう。

これを説明する仮説としては、次のものがある。
まず、単純にアメリカの景気後退の影響による原油穀物等の消費の減退がまだ織り込まれていないということだ。これは説得力がある。実際問題としてまだ景気後退は始まっていない。そして、市場というのは一般論としてはっきり将来が予測できたとしても予測できた時点でその要因が織り込まれるわけではない。
話は少し本題から逸れるが市場で成功する秘訣は将来を的確に予測するということよりもむしろ、その将来像を市場が織り込むタイミングを的確に予測することにある。

次に、ドルに代わる代替貨幣として商品へのヘッジを進めている富裕層の資金移動がある。これも無視できない点だろう。

これらの議論はまた別途行うとして、今回特にとりあげたい仮説がある。アメリカの他国への介入能力が低下しているという事実が意識されてか無意識にか分からないが影響しているのではないか、ということだ。

アメリカはアフガニスタンイラクと戦争を仕掛けた。よく知られているとおり、泥沼化し、イラクでの戦争は完全に失敗したと見なされている。

イラクでの戦争は、主に諜報部門からのある報告が根拠となった。それは、イラク大量破壊兵器があるというものだ。しかし実際は、イラク大量破壊兵器はなかった。この失敗はある変化をアメリカにもたらした。

それは、アメリカの諜報部門が信頼できないのではないか、という意識変化だ。
アメリカは世界最強の経済大国であり、軍事大国である。旧ソ連が大国であった時代、アメリカの諜報部門は世界随一の存在であった。

しかしながら、現在その地位は明らかに低下している。能力としても政策への影響力の点でも過去とは違う。

そして、その諜報能力の低下さらには他国政治への工作能力の低下が商品相場に現在 大きく影響しているのではないか、というのが私の仮説である。

原油価格が80ドル台というのはありえない数字だ。率直にいって、アメリカの工作能力を駆使して湾岸諸国の仲間割れを引き起こせば、すぐに元の相場にもどせるはずだ。実際に、74年のオイルショックの時点では、アメリカの工作能力によって湾岸諸国は抜け駆け的な石油の増産が相次ぎ、急騰した相場は元の相場へと回帰していった。

工作能力の低下というイラク後のアメリカに起きた事態をさまざまな危機のあと市場がようやく織り込み始めたというのが、現在の相場に起きている現象ではないか。